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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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ジャーナリスト浅野詠子

視点)県域水道一体化 事業開始と同時の料金値下げに異論 県試算に奈良市企業局内部から

県域水道一体化を目指す県水道局がある県奈良総合庁舎=2022年3月15日、奈良市法蓮町

県域水道一体化を目指す県水道局がある県奈良総合庁舎=2022年3月15日、奈良市法蓮町

 県主導で進む県域水道一体化計画を巡り、最も注目されるのは給水人口が最大の奈良市が参加するかどうかだ。水道料金が2025年の統合と同時に市町村単独経営と比べ下がるとする県の試算に対し、奈良市企業局の内部から異論が出ている。「広域化の効果は、もっと緩やかに生じてくるはずで、統合の直後に効果は出にくいはず。事業開始と同時にいきなり料金が下がる試算は理解できない」という。

 一体化の料金試算は、コンサルタント会社の知見を生かしながら2020年11月、県水道局が算定。統合で誕生する企業団(一部事務組合)の事業開始時の水道料金を1立方当たり187円と試算した。27市町村が単独で経営した場合の想定加重平均値を下回った。

 さらに先月17日、奈良市内で開かれた第2回県広域水道企業団設立準備協議会において、新たな試算が県から示された。最初の試算から約1年間を経た昨年12月に行われたもので、統合直後の水道料金は1立方メートル当たり178円と、前回より安価となった値が示された。

 広域化の試算を巡り、興味深い分析がある。岩手県の北上市、花巻市、紫波町の水道を賄う岩手中部水道企業団(企業長、高橋敏彦北上市長)は2014年の事業開始に先立ち、30年先の財政シミュレーションを行ったことがある。

 自治体単独の場合と比べ、一時的に料金は上昇するが、設備の統廃合などを根拠に、長期にわたって料金を値上げしなくてもよい、という試算だ。

 試算は、九州大学大学院法学研究院教授の嶋田暁文氏が論考「水道事業のガバナンス―水道法改正を踏まえて」(収録、自治体学会誌「自治体学」2020年3月号)の中で紹介した。議会や住民に丁寧に説明された水道広域化の事例として取り上げられている。

 奈良県の一体化構想の特徴は、料金の差と経営状況の差が著しい27市町村と県営水道を一気に一つにする垂直型の事業統合だ。

 特に水道経営が苦しく赤字体質の御所市、五條市、宇陀市、下市町、吉野町、明日香村の6市町村に対し県は、一般会計からの繰り入れを停止させ、累積欠損金を企業団で面倒をみる方向を打ち出した。県は統合後も、これら団体に一般会計からの繰り入れは求めない方針だ。

 奈良市企業局の管理職は「事業開始と同時に料金が下がるなら減収減益になる。これに伴い水道サービスの質はどうなるのか県主導の試算は不透明。適正な水道料金とは一体何か。そのあり方を証明していくことは、水道の実務では大きな困難が伴う」と話す。

【県水道局県域水道一体化準備室の話】

 「一体化前の値については、各団体の独自経営時の状態を加重平均した値だ。一体化後については新たな企業団として、統一的な考え方で運営することになるため、供給単価の設定や資金期末残高の規模、企業債の発行額等について条件設定しシミュレーションを行った結果、2025年度から供給単価水準を引き下げても将来にわたって安定的な経営が可能となっている」 関連記事へ

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