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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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ジャーナリスト浅野詠子

財政シミュレーション一転不開示 奈良県域水道一体化、料金抑制効果の根拠データ

市町村が単独経営を継続した場合の財政シミュレーションの最新版(下)。主要なデータの大部分が不開示だった。一方、2021年1月の覚書時点の最初のシミュレーション(上)は全面開示された

市町村が単独経営を継続した場合の財政シミュレーションの最新版(下)。主要なデータの大部分が不開示だった。一方、2021年1月の覚書時点の最初のシミュレーション(上)は全面開示された

 奈良県と県内27市町村が県域水道一体化を目指すに当たって作成した財政シミュレーションの最新版について、「奈良の声」の記者が開示請求したところ、県は29日までに大部分を不開示とした。同シミュレーションは、市町村が単独経営を継続した場合と一体化した場合の財政の見通しを比較したもので、県は、一体化による水道料金の抑制効果の根拠にしている。最初の財政シミュレーションについては、5カ月前に全面開示しており、判断を一転させた。

 水道一体化における説明責任の後退が懸念される。

 県情報公開条例に基づき記者が開示請求したのは、一体化の協議に参加している27市町村が単独経営を継続した場合と、一体化した場合それぞれについて、2054年までの33年間の財政の見通しを示す文書。2021年12月時点において想定される毎年の、浄水などの経費と管路更新などの建設投資に関する各細目の金額について試算した数字や、これを根拠に算出した水道料金が一覧表になっている。単独経営した場合の市町村ごとの表と一体化した場合の表がある。

 一体化を選択した方が水道料金の上昇を抑えられる可能性があることを数字で示している。

 不開示だったのは、奈良市と葛城市を除く25市町村の表の大部分。水道料金の見通しは開示され、その根拠となる経費や建設投資の額は黒塗り状態で開示された。

 6月3日付の県の一部開示決定通知書は不開示理由について、情報公開条例の規定を引用し、意思決定の中立性が不当に損なわれ、県民の間に混乱を生じさせ、事業の適正な執行に支障を及ぼす恐れなどを挙げている。

 各市町村のシミュレーションの金額は、市町村が算出して県水道局に報告した数字が使用されている。

 県水道局県域水道一体化準備室によると、奈良市と葛城市については、すでに市議会で公開されているデータであるため開示したという。

 2021年1月の覚書時点の最初の財政シミュレーション(市町村単独)については、記者が今年1月4日に開示請求したのに対し、同月17日付で全面開示の決定をしている。

 同室は「将来の投資額を決めるものではなく、料金水準の目安として算定したが、公開すると、数字が一人歩きすることが懸念される。覚書時点において個々の試算の数値を開示したところ、複数の市町村から『一体化の協議を進める上で表に出すのは好ましくない』と指摘された」と話す。

 また、「料金試算に関する市町村の個々の数値を公開するよう奈良市から要望が出ており、県広域水道企業団設立準備協議会において公開することを検討するが、一般県民には公開しない」としている。

 財政シミュレーションを巡っては、覚書前に作成された最初のシミュレーションと、その後、約13カ月を経て作成された最新版のシミュレーションは条件設定が異なる。県は最新版で、一体化した場合のデータに関し、検針や窓口などの業務の委託料と人件費の10%縮減や工事費3%縮減などを新たに反映させた。奈良市が6月22日に開いた「市県域水道一体化取組事業懇談会」では、これに対し、複数委員から実現性について疑問の声が出た。 関連記事へ

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