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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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ジャーナリスト浅野詠子

奈良市水道ことし100年 記念事業は見送り 県域一体化のうねりの中

大正時代の奈良市の水道遺産、赤れんがの旧計量器室=2021年12月21日、同市川上町

大正時代の奈良市の水道遺産、赤れんがの旧計量器室=2021年12月21日、同市川上町

1918年、木津川の取水口で導水渠(どうすいきょ)の水中掘削工事に携わる人々=「奈良市水道五十年史」から

1918年、木津川の取水口で導水渠(どうすいきょ)の水中掘削工事に携わる人々=「奈良市水道五十年史」から

水道専用の奈良市営須川ダム貯水地=2021年12月27日、同市須川町

水道専用の奈良市営須川ダム貯水地=2021年12月27日、同市須川町

 奈良市の水道事業が、県域水道一体化の問題に直面する中で今年、100年を迎える。市は人口急増による水不足などを乗り越えながら、その歩みを「50年史」や「70周年記念写真集」に残してきたが、今回は100年史刊行などの記念事業を見送る。

 市は1922(大正11)年9月、水道水の供給を開始した。その8年前の1914年、水源となる京都府旧木津町(現・木津川市)の木津川から水を引くため府知事に引水願いを出した。翌年、内務省が許可し、市は給水人口5万人を目指して管線路用地などの事業用地を買収し、水道工事に着手した。

 明治時代の旧奈良町役場のときから活発に論議されていた水道事業。当初は、佐保川からの引水や春日山の谷川に井戸を掘る案なども出ていた。市街地住民のニーズや文化財防火の観点だけでなく、鉄道院(後の国鉄)奈良駅拡張計画も、水道の早期事業化論を後押しした。

 水道のスタートと同じ時期に建てられた赤れんがの建物が同市川上町に残る。送水量の計量器室だった。平屋建てで床面積は13.39平方メートル。2003年ごろには、建物を解体し、敷地の市有地を売却する計画も浮上した。土木学会(公益社団法人、東京都新宿区)が土木遺産に選奨したのが2017年。価値が認められたのを受けて市企業局は3年後、傷んだ箇所を修繕し、初めて案内板を掲げた。

 100周年の記念事業を行わない理由について奈良市企業局経営部企業総務課は「上下水道事業が置かれている厳しい経営環境の中で経営努力を行っている現状において、別途費用と労力を要する100年史の編さんおよび記念事業などは計画していない。市民の皆さまへは、ホームページなどでお知らせすることを考えている」と説明する。

 水道広域化のうねりも関係しているとみられる。3年後の2025年度に県が設立を目指す県域水道一体化の企業団(一部事務組合)に市が参加するのかどうか、判断が注目されている。県が一体化を急ぐ理由には、県営水道を堅持し、経営の苦しい県中南和地域の市町村の水道料金上昇を抑制し、国が力を入れる水道広域化政策の補助金満額獲得の狙いもある。

 今年7月の市長選では、立候補者5人のうち当選した現職を除く3人が県域水道一体化に参加しない方針を明らかにし、賛否が分かれていることを浮き彫りにした。

 水道一体化に向けた県の方針によると、奈良市営緑ケ丘浄水場は存続させるが、同市営木津浄水場(木津川市鹿背山細川)は廃止したい考えだ。木津浄水場は市の水道事業の草創期からあり、現在は比奈知ダム(三重県名張市)を主要水源としている。同企業局のある職員は「木津浄水場は残した方がよい。緑ケ丘浄水場のろ過池、沈殿池などを修繕する際にも安定給水に役立つ施設だ」と話す。

 奈良市の水道事業の100年にはいろいろな出来事があった。

 太平洋戦争中には、傷痍軍人の療養所になっていた同市七条町の国立病院に向けて、三条町から水道配水管6.5キロを延長する工事が行われた。敗戦後は、占領軍への優先給水に向けたバルブ操作によって、市民の飲料水が一時、止まったことも。水道専用の市営須川ダム完成寸前に、市西部の人口は想定外の伸びとなり、1966年の夏には相当な範囲で20日間も断水し、京都府宇治市の陸上自衛隊大久保駐屯地から給水車が出動した。

 淀川水系木津川上流域の地形を生かした自然流下導水路を10年がかりで建設した後、名実共に奈良市の水道事業が「安定した」と語られるようになったのは年号が平成になってからのこと。1991年、山添村48世帯水没と引き替えに市民の水がめ、布目ダムが完成した。当時の市長、故西田栄三さんは「悲願が達成される」と水道70周年記念写真集に書いた。

 1966年の断水時に近鉄学園駅前の鶴舞団地の4、5階戸口まで連日、水道局の職員がバケツの水を運んだ出来事は、同局の先輩から後輩へ語り継がれている。 関連記事へ

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