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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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ジャーナリスト浅野詠子

記者講演録)水道の自治と水源 大和郡山市例に奈良県一体化問題考える

市民ら90人が参加した大和郡山市の水道問題を考える学習会で講演する筆者(中央奥)=2023年7月15日、同市高田町の市民交流館

市民ら90人が参加した大和郡山市の水道問題を考える学習会で講演する筆者(中央奥)=2023年7月15日、同市高田町の市民交流館

 【本稿は、奈良県域水道一体化構想の課題や疑問点について「奈良の声」で伝えてきた浅野詠子が2023年7月15日、大和郡山市高田町の市民交流館で開催の「水道一体化を考える学習会」(大和郡山市の水道問題を考える市民連絡会主催)で、「県庁主導の県域水道一体化に異議あり! これからの水源と水道自治を探る」の演題で講演した際の内容を修正し再構成したものです】

県北部の優良な水道攻略が一体化の正体か

 皆さんこんにちは。荒井正吾前知事の強力なリーダーシップにより26市町村の水道と県営水道が合体する県域水道一体化の方向がほぼ固まりつつあり、県は2025年4月1日の事業開始を目指しています。(講演6日後の7月21日に開催された県広域水道企業団設立準備協議会で、新しく会長に就任した山下真知事は、前県政時代に示されていた企業団の開始時期、開始と同時の統一料金などについて、再検討する必要があるとの考えを明らかにした  「奈良の声」記事

 これにより経営が苦しい相当数の市町村の水道が一気に直営をやめることになります。しかし昨年、給水人口が3割を占める奈良市が「市の水道経営は安定している。今まで以上に投資し、老朽化・耐震化対策を進めることは可能」と一体化への不参加を表明。暮れには、県内一水道料金が安い葛城市が協議から離脱しました。同市は一体化に参加すると、市内3カ所の市営浄水場(水源・ため池)が全廃止となり、市長は「市民が抱くであろう喪失感」を重く受け止めたのでした。

 そしてここ大和郡山市。水道事業の経営が非常に良好で、2カ所の市営浄水場がありますが、上田清市長は昨年暮れに参加を表明。これに対し市議会では賛否が拮抗する事態となっています。一体化に参加すると水道の経営権を失い、中心市街地にある北郡山浄水場(水源・地下水)が廃止されます。さまざまな問題が争点となっています。

 一体化は、前知事の強力なトップダウンで計画が進んだ半面、住民参加や情報提供、情報公開の在り方に課題を残しています。よく知らない県民も多いでしょうから、町内会単位で丁寧な説明会を開くことが大事でしょう。

 県が主導してきた一体化は、参加市町村の経営状況の良いところと悪いところの差が著しい水道を一気に統合することになり、県当局は国庫補助金(10年間で207億円)の獲得に躍起となり、かつ、荒井前知事の意向により、県民皆の財布である県の一般会計から10年間で国庫補助金と同額の207億円の支援が表明されています。

 こうした県の財政支援の在り方には疑問があります。一体化に参加した市町村エリアの水道を強靱(きょうじん)にする支援を意味するのですが、これからは広域化に参加するところも、参加せずに単独で経営に挑むところも、そして山間部の過疎地の簡易水道も、すべての県民が安全・安心・強靱な水道を利用できることこそ、県政の重要な使命だと思います。

 県域水道一体化とは何か。2021年1月、関係市町村長と知事が覚書を締結し、その4年後に一気に料金を統一して事業統合が実現するのは、神業です。

 そうではありません。これまでおよそ10年の歳月をかけて、県は、県中部の町村などに対し、浄水場を廃止して県営水道を受水するよう促してきました。その結果、一体化が始動する予定の2025年度より前に、北葛城郡、高市郡、生駒郡、磯城郡の町村はすべて直営の浄水場(水源・地下水など)を廃止し、県営水道を100%受水する態勢になっています。これが一体化の下敷きです。

 そこへもってきて、県北部の潤沢な内部留保資金がある各市営水道に一体化に参加してもらって、数カ所の浄水場を廃止してもらう。廃止すれば更新する費用が浮くので、一体化の効果額の中に算入します。一体化は北部攻略の構想であると私は読んでいます。

 県外の水道広域化の事例では、まず経営統合し、何年か先に浄水場の集約をしようとの目標を掲げているところが複数あります。ところが奈良県の一体化は、2025年の事業開始予定の時点で、10以上の浄水場が廃止された状態です。

 都道府県の中でも割髙な奈良県営水道は、こうして受水量を増やし、内部留保金は過去最高の179億円(2021年)をマークしています。県営水道でこの額なのだから、大和郡山市営水道の内部留保80億円は本当に立派です。

 県営水道は、自分たちの内部留保金を原資に、利益剰余金を積み立てており、県はその一部を使って、市町村が県営水道を受水しやすい工事を盛んに行っています。

 でも考えてみたら、県営水道の利潤は一体化に参加するところも、参加しないところも、市議会が賛否拮抗している大和郡山市も、受水費として支払ってきたから生まれるのですよね。しかしこれまでの県水の利潤は全部、一体化の企業団に持参するのです。

黒塗りの開示文書が物語ること

県水道局の開示文書。企業団議会の構成案の主要な部分が黒塗りされている

県水道局の開示文書。企業団議会の構成案の主要な部分が黒塗りされている

 皆さまにお配りした資料の3枚目をご欄ください。一体化の議論は大詰めなのに、県から開示された企業団議会の定数を何人にしようかというたたき台の案が黒塗りです。

 企業団というと、何か勇ましい船団が船出するような印象をお持ちかもしれません。実際は、一部事務組合という一部の事務を共同で行う特別地方公共団体です。県には県議会が、市町村には市町村議会があるように、企業団議会が設置されます。

 例えば、給水人口が約5000人の明日香村は、控えめに村議会から1名の議員を企業団に出すとしましょう。では給水人口がその10倍以上の大和郡山市議会から10倍の議員を送ることが保証されるのでしょうか。

 無理だと思います。開示文書がこんなに黒塗りだから、何を言われても仕方ないですね。なぜ無理なのか。奈良県の水道企業団は、経営状況の差が著しい市町村が集まるわけで、しかも初年度から、セグメント方式が採用される大淀町を除くすべての参加市町村で水道料金が下がる試算をしています。補助金は入っても減収減益でスタートするのだから、企業団議会の予算充実なんて考えられません。情報公開のプロを置くとも考えられない。

 こういう黒塗りの文書ですと、肉眼で判読できる部分がおのずと目立ちますね。同じページの右下の一覧を見てください。先行事例として、幾つかの企業団の議員定数が出ています。

 大阪広域水道企業団も載っていますが、先行事例とはいえないと思います。給水人口が最大の大阪市が参加していません。それに給水人口が府内第2位の堺市は用水供給事業に参加しているものの、末端の家庭まで水道を届ける垂直統合の協議に加わっていません。

 府域一水道はあまり進んでいません。先行的に岸和田市や東大阪市周辺などの部分的な事業統合の協議がなされましたが、和泉市が離脱、羽曳野市や河内長野市も不参加、大東市も不参加です。

 域内人口603万3000人の大阪の水道企業団議会の定数が33人と示され、奈良県の企業団もこの少なさを参考にせよ、とでもいうのでしょうか。

 この一覧には群馬東部広域水道企業団も先行事例として出ています。いわゆる官民連携の先行事例とも呼ばれる統合でした。民間企業と企業団が出資して株式会社が設立され、浄水場管理や料金徴収、施設更新の設計などの業務を行っています。

 荒井前知事は奈良県の水道企業団が民営化しないことを宣言し、一体化の企業団設立に向けた基本計画に盛り込みました。もしも民営化への疑念が広まってしまうと、一体化構想は広範な保守層からも賛同が得られなくなると思います。先手を打ったのでしょう。

 全国初となった宮城県によるコンセッション方式の水道民営化ですが、やってみたいと思う奈良県内の首長や議員はきっといると思います。現代政治の潮流を見れば。

 何しろ26市町村に及ぶ料金統一が一気に実現に向かおうとしています。料金の統一は、水道の広域化を進める上で一番難しい協議の一つとされています。奈良県内では大きな料金の差があるのに、前知事の鶴の一声で一気にまとめられた。統一料金が実現している水道事業の形態というのは、民営化して法人にそっくり渡すときに好都合だといわれています。

 基本計画は、2025年度事業開始の企業団が受け継ぐ予定ですが、もちろん不磨の大典ではありません。冒頭、必要に応じて更新するとうたっています。県水道局によると、県には、重要な基本計画を変更するときに議決を要する条例があるが、企業団もその趣旨を受け継ぐだろうと見通しています。

 そうなると、基本計画に盛り込まれた「民営化しない条項」を廃止するには、企業団の過半数以上の議決でできてしまうのです。だから企業団定数の在り方は大事なのです。

 県が先行事例として示したこの一覧の中で、共感はしませんが勉強になるのは、香川県の統合です。香川用水という水源が参加市町村間でほぼ共通していることが特徴です。高知県の早明浦ダムの水を徳島県の吉野川から分水しています。渇水についての悩みも参加市町村間で分かち合ってきたと聞きました。それに県が主導したかもしれないが、広域化を促す改正・水道法施行よりだいぶ以前からの論議があり、自発的な取り組みの印象を受けます。料金統一も統合後の10年先を目指したそうです。奈良県当局が考えているのは香川の企業団なみの定数でしょうか。

 知事が変わったので、もう一度開示請求をしたら定数案は開示されるかもしれません。そうなれば、有権者は県政の変化を感じることでしょう。

1票差、大和郡山市会と大阪府和泉市会

 大和郡山市議会(定数20)が一体化関連議案を賛成10、反対9の1票差で可決したのが本年3月でした。同じころ、お隣の大阪府では、和泉市(人口約18万3500人)の市議会(定数24)が近隣都市との水道事業統合案を巡り、賛成11、反対12の1票差で否決しました。

 反対討論に立った山本秀明議員(明政会)はこんなふうに意見を述べています。

 「人口の多い大阪市、堺市が加わらず、府内でも経営基盤のしっかりとした半分近い自治体は企業団との経営統合をする判断をしていない。府域一水道のめどはついておらず、後戻りが困難な経営統合に本市が踏み切れば、将来的には人口規模の小さい経営基盤の弱い参加自治体を、和泉市民の水道料金で支えていかなければならないことは否定できない。経営統合ありきで市は技術職員の募集努力を怠ってきたし、企業団に入れば水道の福祉減免も廃止される。市民サービスは低下し、自治権を放棄するのは時期尚早」

 統合推進派の和泉市長は維新。厳しい反対意見は、保守系の議員から出され、共産党議員らも具体的な反対意見を述べ、公明の会派からも一体化の問題点が挙げられました。

 採決の模様を傍聴しました。採決の前に議長が「ボタンの押し忘れがないように」と喚起します。そうです。賛否は電光掲示版によって傍聴席から一目瞭然。赤か青か、色分けされた賛否の数が表示されました。

 のみならず、討論・質疑に立つ議員が2問目以降、自席から発言する際、傍聴席には背を向けて立っていますが、議場正面には2台の大きなモニターが左右にあり、議員の表情が映し出されます。

 傍聴席には耳の不自由な方が座して議会のやり取りが分かるよう文字放送が流れています。傍聴なんかライブでもやっているし、議事録も印刷される。でも、あえて議場に足を運ぶところに有権者がしっかり見ているんだぞという意思表示になりますね。

 帰りに和泉市会の事務局に尋ねました。議場の環境をいつ改善したのですかと。すると「最近の庁舎建て替えの機に行いました」といいます。えっ? 大和郡山市、庁舎の建て替えが行われたばかりじゃありませんか。

 あの緊迫した一体化関連議案の採決のとき、大和郡山市議会は旧態依然とした挙手による方式でした。どうして議長席から瞬時に「賛成多数」と分かるのか、釈然としない思いがしました。一体化の賛否が拮抗する今こそ、議場環境の改善を要望したいです。

水道水源を見つめる

大和郡山市営水道供給分布図

 一体化の協議から離脱した和泉市の水道は経営が良好です。ただ市内に有力な河川が少ないということで8割は、大阪府広域水道企業団から淀川の水を買っています。残る2割が自己水です。

 自己水の主水源は農業用のため池を利用していると聞いて、感慨深いものがありました。すぐに葛城市の取り組みが浮かびました。一体化の協議から離脱し、単独経営の継続を決めた自治体ですね。葛城市は自己水の比率が約8割に上り、8カ所のため池を市営3カ所の浄水場につないでいます。

 あれは平成の大合併のころ、旧当麻・新庄の2町が合併して葛城市が誕生しました。ちょうどその前後、頼みとしていた水道水源の地下水の調子が悪くなってしまいます。それなら、隣の御所市に県営浄水場があるのだから、市営の浄水場なんか投げ捨てて県水を買ったらいいと思う方がいらっしゃると思います。

 それは無理な相談です。製造コストが全然違う。県営水道は彼方の吉野川(紀の川水系)のダムを水源とし、はるばる県北部の都市に導水するので製造原価が高くつきます。葛城市としては、新市のスタートと同時に水道料金の値上げなどは避けたかったでしょう。水源をどうするのか関係者らが思案し、地元の葛城山系にある谷池に着目して奈良県一安い水道が実現したのです。

 大和郡山市水道の自己水源比率は50%。半分は県営水道から受水しています。それでも廉価な水道を維持できるのは、製造コストが安価な市営の地下水浄水場のお陰です。市内に2カ所あり、このうち中心市街地にある北郡山浄水場をつぶしてしまうのが、県域水道一体化の計画です。

 奈良市が一体化の協議から離脱する前は、大和郡山市と生駒市の浄水場すべてを廃止することが決まっていました。県主導の一体化構想は、水源についての思想が弱かったと思います。災害劇甚化の認識も当初どれだけあったのか。奈良市が不参加となって、県も妥協し、住民からの反発も出ている地下水浄水場全廃の方針を改め、大和郡山市営昭和浄水場、生駒市営真弓浄水場を存続することにしたのです。

 私は週に一度、奈良教育大学で社会科などの教員を目指す学生に講義をしています。先日、30人の学生に対し「皆さんの古里で水道の蛇口をひねると出てくる水はどこから来ているのでしょうか」と出題しました。

 三宅町から通学している学生が「天理ダムから来ている」と答えました。感心しました。正解は、水系が異なる遠くの吉野川のダムから引いた水です。三宅町はつい最近まで、大和郡山市のように地下水と県営水道の水を混合して家庭に水道を届けていました。しかし地下水の浄水場を廃止し、県営水道100%になりました。

 天理ダムという大和川水系の水源は、磯城郡周辺の人々にとって地理的な一体感があるのでしょう。この学生は、身近に良質な水源があることが水道事業の理想的な形として中学や高校の先生から教わったのかもしれません。導水距離が長いと電力の消費量も多くなります。

 天理ダムは奈良県が多額のお金をかけて施工し、洪水対策と水道水源、双方に利点がある多目的ダムと宣言して完成しました。

 しかし今回の県域水道一体化計画により、水道水源としの役割を終えることになります。同様に県営初瀬ダムも水道水源の機能を放棄することになりました。これら県営2ダムから取水している天理市営豊井浄水場、桜井市営外山浄水場の廃止方針が決まったからです。

第三者委員会開催、奈良市のみ

 県の一体化構想はいいことばかり言ってきました。しかし大和郡山市議会では賛否が拮抗しているので、市は、一度の住民説明会で良しとせず、ぜひとも第三者委員会を開いてほしいです。

 開いたのは奈良市だけ。来年に一体化への重要議決を控える全26市町村と県は開くべきではないか。小さい町村で開催が困難なところがあれば、それこそ県が助力するべきではないでしょうか。

 奈良市の第三者委員会は「県域水道一体化取組事業懇談会」という名称で昨年、5回にわたり開かれ、たくさんの市民が傍聴に訪れました。委員11人のうち、経済学や経営学が専門で公営企業分野にも強い大学教授2人が起用されましたが、水道の広域化には一定の理解を示されており、中立な会議であることが印象に残りました。

 座長の浦上拓也・近畿大学教授(経済学)は日本で一番水道に精通していることを自負されていました。世界の事情もよくご存じです。アイルランドは国営、英国のウェールズは民営化されて関西電力みたいな会社が経営し、料金は上がったが減免の幅が広がったと語っておられました。

 この会議ですが、意外にも公認会計士や税理士らの実務家が県主導の一体化構想に厳しい意見を述べました。30年先まで県が試算した水道料金のシミュレーションですが「分かるはずがない」という趣旨で公認会計士の委員が発言しておられます。

 分かるはずがない―。そうですね。たかたが数千万円で請け負わせたコンサルタント会社の知見を得て県が数字を出しましたが、数千万円で水道の未来が読めれば、こんなに安いことはありません。分からないという方が科学かもしれません。

 奈良市の水道は布目ダムなどを水源として、自然流下1万メートルの地形を活用し、市営緑ケ丘浄水場は県営水道よりはるかに安い水道を生み出しています。もし一体化に参加したら、布目ダムから浄水場までの地下トンネルについて、防災上、もう一本のバイパスを建設してよろしい、国庫補助金がつくからと、荒井前知事も了承していました。

 そんな話題が出たとき、税理士が「防災上必要なことは、一体化に参加する参加しないじゃなくて、早期に予算化すべきだ」と断じています。

 会議は市議会のすべての会派から1人ずつ委員を出して、幅広い層から選ばれた住民代表が意見を述べたことになります。欲を言えば、公募の委員と抽選の委員が何人かいてもよかったですね。

 奈良市の水道水源は淀川水系に当たります。審議会のお手本として、今世紀始めに開催された淀川水系流域委員会というのがありました。情報公開と参加にかけては、現代のどんな行政の会議にも追随を許さないのではないでしょうか。

 傍聴席からも意見が言えました。こんなことを認めたら、会議が一向に終わらなかっでしょう。河川整備の基礎案を出すまで600回も会議を開いたそうです。すごいのは、審議会の委員を誰にするか、公開の準備会を開いています。ひるがえって奈良県庁などの審議会によっては、同じような顔ぶれだったり、老舗まちづくり系団体からの指定席もあったようですが、誰を選任するかの会議を奈良県内の自治体が公開でやるなんて考えられません。

 そして一番大事なことは、はなから行政が結論を用意せずに会議を進めるという方針でした。国土交通省の淀川河川事務所長だった宮本博司さんが裏方で頑張ったのですが、本省から反発をくらったようでした。

一体化参加なら大和郡山市の料金収入はどこへ移転

 先ほど、奈良県の水道広域化は10年がかりでやってきたのではないか、という見方をお話しました。県は当初、広域化は経営統合でいいし、料金統一もずっと先だと言っていました。ところが2019年、改正・水道法が施行されると、2025年度の事業開始に向かって前のめりの姿勢になっていきます。国庫補助金は期限があり、早く手を挙げた方が有利。県は10年間で200億円余の満額を得るため2025年度の目標を設定しています。

 鳥取の元知事で総務大臣を経験した片山善博さんは「国庫補助金獲得のプロになることは、地方自治の素人に成り下がることだ」と批判しています。あれは西暦2000年の前後、国庫補助金を減らして、地方の自主財源に転換させようという思潮がありました。時代は悪くなっているのでしょうか。

 一体化の水道料金を巡っては、奈良市議会の論戦が印象に残ります。仲川げん市長が不参加を表明する以前のことです。井上昌弘議員(共産)の調査ですが、減収減益でスタートすると、企業団設立前は5市町村が赤字だったが、事業開始と同時に一挙に19市町村に拡大するという想定。奈良市は黒字なので、市民が支払った料金はどこに移転するのか、という水道自治の根幹に関わる問題提起がなされました。

 参加に慎重な奈良市に対し「助け合いだ」といさめる県議もいました。県は、経営が悪化した赤字団体について「構造的赤字」という表現を使っています。地理や地形、構造不況業種などが赤字の一因でしょうか。しかし、すべてが構造的であると言い切れるでしょうか。

 適正な値上げをすべきときに、選挙を意識して値上げしなかった首長がいたとしたら、政治姿勢が問われませんか。水道の経営が厳しいのに料金はわりと安く、借金(企業債残高)がたくさんある市町村というのも釈然としません。料金は少し高いけれど、借金が少ない団体は、堅実な一面が見えてくるような気がします。

 前知事が熱心に推し進めてきた水道一体化。一つの背景として、奈良県は市町村合併が進まなかったという事情があります。全国で2番目に合併達成率が低かった。国は交付税減額をちらつかせ、合併したところには交付税を有利に算定替えできる特例を講じ、合併特例債という箱モノ公共事業のおまけを付けて誘導しました。

 しかし語るに値する事例もあります。県都・奈良市に編入されることを潔しとせず、住民投票を実施して村民の多数が単独村を選択した山添村などが該当します。奈良市が水道水源、布目ダムの建設でお世話になった村ですね。

 共感できないのは、住民発議の法定署名が集められながら、地方政治家らの不熱心な態度もあって運動が停滞し、合併協議がうまくいかなかった王寺町周辺7町の実例です。西大和ニュータウンかいわいの人口16万人の有力な新市が誕生する予定でした。奈良県水道の広域地図も変わっていたと思います。法隆寺市といった国内外に通用するブランドの新市名も期待されましたが、ささいなことで議員同士がけんかし、首長たちも後ろ向きでした。

 これら7町の中には水道経営が悪化した団体も幾つかあります。そこへ来て前知事のトップダウンによって進んだ護送船団型の水道一体化ですね。いずれの町も自己水源を簡単に放棄し、県営水道100%になったけれど、葛藤はないでしょうね。直営水道を廃止するに当たって、記録を残してほしいと思います。

住民投票について

 先日の大和郡山市議会建設水道委員会において、県域水道一体化への参加・不参加を住民投票で決めるのはどうかと、取り上げた議員がいました。市議会の賛否が拮抗する中で、住民に直接、賛否を問う考え方ですね。

 市当局は住民投票を実施する考えはないと答弁しています。一方、地方自治法が定めた直接請求で実施することが可能です。まずは有権者の50分の1以上の署名が必要になります。奈良市なら6000人ぐらい必要なのでしょうが、大和郡山市では1400人ほどの署名で住民投票の実施が可能となり、署名集めのハードルはそれほど高くないと思われます。

 署名が集まると、住民投票を実施することに賛成か反対か、市議会の採決で問うことになります。大和郡山市の自治基本条例にも住民投票の結果を尊重することがうたわれています。もしも反対する議員が現れれば、命の水を扱う事業主体は広域の企業団か市営か、どちからが望ましかという選択において「市民の声を聞く必要はない」ということですね。そういう独裁的な判断をする議員が現れるのは考えにくいです。

 住民投票の実施はどんな意味があるでしょうか。正しいこと、正しくないことを住民の投票で決めるというのではなく、幸せの感じ方は人それぞれ違うからこそ、やってみる意義があると思います。

 大和郡山市の水道は昨年80周年を迎えました。戦時下の1942(昭和17)年という苦難の時代に給水が開始されました。この80年の水道史において明るい出来事といえば、北郡山浄水場に生物接触ろ過施設が導入されたことではないでしょうか。

一体化に参加すると廃止される大和郡山市営北郡山浄水場。環境に優しい生物接触ろ過施設を持つ(同市ホームページから)

一体化に参加すると廃止される大和郡山市営北郡山浄水場。環境に優しい生物接触ろ過施設を持つ(同市ホームページから)

 くみ出された地下水にポリエステルの球体を投入すると、微生物の力で鉄やマンガンなどが除去されるのだそうです。5年間にわたる実験を経て、2001年から稼働しています。薬品の使用を大幅に抑制することができ、当時、市は21世紀にふさわしい浄水場の形として宣言しています。

 北郡山浄水場は、昭和浄水場のように県営水道から受水する水とブレンドしていません。ここでは地下水100%の貴重な浄水を行っています。一体化に参加すると、この浄水場が廃止されることになります。生物接触ろ過施設はユニチカが施工しました。ちょうど本日の会場の近くで昔、郡山紡績が操業していましたね。大和高田もそうですが、近代黎明(れいめい)の「繊維の奈良」を思い起こします。

 大和郡山市営水道は次の100年に向かって、先人の思いと技術を継承してほしいと願っています。ご清聴ありがとうございました。 関連記事へ

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