追跡)奈良県香芝市答弁「議会に提出した」判決文、誰に届けられたのか? 議員出席停止処分「違法」巡る控訴審議 全体で共有されず
青木恒子議員の処分を巡る奈良地裁の判決文(左、弁護団提供)と控訴の承認を求める香芝市の議案書(右)
奈良県香芝市議会による青木恒子議員(共産)への出席停止などの処分が違法とされた奈良地裁判決を巡って、被告となる同市は1月24日の議会臨時会に控訴の承認を求める議案を提出したが、判断の参考資料となる判決文は添付しなかった。市は「(臨時会までに)議会に提出している」と答弁した。しかし、臨時会当日に持っていない議員もいて、議会全体で情報は共有されていなかった。判決文は議会の誰に届けられたのか。
市が提出した議案書には「原判決の取り消しを求める」「本件請求の棄却を求める」など、控訴に当たっての最小限の記述しかなく、市が判決で命じられた損害賠償の内容、陳謝や出席停止の処分がなぜ違法とされたのかなどの判決理由が分かる資料はなかった。
市が判決文を添付しなかった理由を巡っては、次のようなやりとりがあった。
臨時会の日、本会議に先立って開かれた議会運営委員会で、複数の委員から控訴すべきかどうかを判断するのに必要として、判決文の添付を求める意見があった。これに対し、市総務部長は「市の近年の訴えに係る案件については、議案書のみで参考資料は添付しておらず、この慣例に従った。議案書に対し(事前に)議員から提示せよとの意見もなかった」と述べた。市は「添付の予定はない」とし、青木議員の処分議案に賛成してきた議員が過半数を占める同委員会も、市に提出を求める意見を賛成少数で否決した。
市が判決文を議会に提出していることを明らかにしたのは、この後の本会議での議案に対する質疑応答のときだった。筒井寛議員(enjoy香芝)が「判決文を持っていない議員は控訴するかどうかをどう判断するのか不思議に思う」と疑問を呈した後、「判決文は議会に提出したのか」と質問。これに対し、堀本武史副市長は「提出している」と答えた。
「奈良の声」は副市長に対し、いつ議会の誰に判決文を届けたのか確認した。副市長によると、判決のあった1月16日、秘書広報課を通じて担当の総務課に指示し、議会に届けさせたという。
総務課はどう対応したのか。同課によると、16日夕、裁判を傍聴した課長が判決文を受け取って市役所に戻ると、名前は明らかにしなかったが1人の議員から同課に対し、議会事務局を通じて判決文の「資料提供願い」(資料請求)が文書であったといい、これに応じて、その日のうちに議会事務局に判決文を届けた。同課は副市長からの指示について「このこと(資料提供願いのこと)だろう」と考えたという。
「奈良の声」記者は1月31日付で市に対し、市議会議員から提出された同判決文に対するすべての資料請求文書を開示請求した。翌2月1日付で文書が開示されたが、1月24日の臨時会までにあった請求は1月16日の1件のみ。提出者は議長の川田裕議員だった。川田議員は議会を代表する議長の立場にあるが、提出者名の肩書きは議長ではなく香芝市議会議員となっていた。臨時会以降の請求文書はなかった。
もう一方の議会にも確認した。「議会に提出している」という市の答弁を前提に、判決文の提供はあったのか▽あったとすれば各議員に配布しても良かったのではないか、議長の考えをうかがいたいと尋ねた。議会事務局は「判決文は議員から市側に資料請求しているようだ。届けられた判決文を事務局が預かって議員に渡したことはあった。議員がどのような目的で請求したか、事務局は答える立場にない」とした。
議会事務局の認識は、議員の個別の資料請求に対し届けられた判決文を預かったというものだった。川田議長が受け取った判決文は議会全体で共有する形にはならなかった。
裁判の原告である青木議員は、臨時会2日前の1月22日に配布された議案書に判決文が添付されていなかったことから、市議会議員の人数分の判決文の写しを用意して、臨時会当日の24日に配った。青木議員によると、一部の議員はすでに判決文を持っていたという。青木議員の処分議案に賛成してきた議員らだった。「議長からもらった」と話す議員もいたという。一方で判決文を持っていない議員も複数いた。処分に反対してきた議員らだった。
福岡憲宏市長は取材に対し「議会運営委員会で判決文が必要と判断されていたら、個人情報に配慮した上で当然、配布していた」と述べた。
同議案は賛成多数で可決され、市は1月26日付で奈良地裁に控訴状を提出した。