検証)住民、蚊帳の外 西奈良県民センター跡地の活用検討 売却方針決定への過程
夕景の大渕池。西奈良県民センター跡地近くからの眺め=2019年11月、奈良市登美ケ丘2丁目(浅野善一撮影)
奈良市の西奈良県民センター跡地の売却に向けた手続きが、県により進められている。跡地を、建物の階数や構造に制限のある県立大渕池公園の都市計画決定区域から除外する変更案の縦覧が9月6日終了した。一方で、売却方針決定に至る跡地の活用方法の検討においては、センターを利用してきた住民は蚊帳の外に置かれた。あらためて経過をたどり、県ファシリティマネジメント室に質問した。
センター開設は1971年。2016年3月、老朽化などを理由に廃止された。廃止時の利用団体数は75団体(県協働推進課=当時=が廃止前にその通知先として挙げた団体の数)に上った。廃止前の最後の1年間(2015年度)のホール、集会室2室、和室、運動場(運動場はセンター廃止後、大渕池公園の一部として供用が開始された)の稼働率は62.6%。住民らの活動、交流に欠かせない施設だった。
センターはまた、選挙の投票所や確定申告の会場などとしても使われてきた。
跡地売却の話は、センター廃止前には出ていなかった。県の記録文書によると、協働推進課は2014年5月、南登美ケ丘自治会長からの問い合わせに対し、「都市計画上、都市公園区域であることを踏まえ、今後検討」と説明。さらに、2015年9月、二名地区自治連合会長に対しても同様に「売却は考えていない。基本的に公園としての利用を考えていく。一種低層住専等の建築規制もあり、民間業者が思い通りに建築ができる場所ではない」と答えていた。
しかし、センター建物の撤去完了後の2019年6月、跡地は県の低・未利用資産に登録された。県庁内のファシリティマネジメント推進本部の下、県で利用しない場合は地元市町村に利用の希望を聞き、希望がなければ民間に売却するという方針に従い、活用方法を検討。2020年4月には、売却などを想定した「整理資産」に分類された。
跡地が低・未利用資産として民間に売却される可能性があることを住民が知ったのは2019年11月。「住みよい登美ケ丘をつくる会」(現在は「西奈良県民センター跡地利用を考える会」として活動)が県に申し入れて開かれた面談の場だった。同会はこのとき、跡地に住民の交流、憩いの場となる施設を建設するよう要望した。
県は、同会の要望に対し「奈良市で整備すべき内容」との認識を示す一方、県くらし創造部(当時)の部長が副市長に対し、住民からの要望内容を伝えた。その後、県は2020年7月、同市に対し跡地の活用意向の有無を尋ねたが、市は同年8月、「活用の意向無し」と回答。県はこれを受けて売却の方針を決めた。
同会は県ファシリティマネジメント室との面談を重ねたほか、県公園緑地課や奈良市にも足を運び、売却中止を訴えたが、方針は変わらなかった。
「奈良の声」は、センター廃止で跡地周辺が公共の集会施設の空白地域になったことについて、2021年8月、公民館を担当する市教育委員会地域教育課などに見解を求めたが、同課は市の財政状況を挙げて新設の予定はない、と回答した。
大渕池公園の都市計画決定区域変更案は今後、案に対する市民の意見と奈良市の意見を付けて県都市計画審議会に諮られる予定。承認されれば、一般競争入札による売却へと手続きが進められる見込み。
県ファシリティマネジメント室に質問
「奈良の声」は8月17日、ファシリティマネジメント室に質問を送り、同月23日、同室室長補佐から電話で回答があった。以下に質問と回答。
質問(1)売却に向けた手順としては、跡地を大渕池公園の都市計画決定区域から除外する変更案が県都市計画審議会で承認されるかどうかを待って、売却するかどうかを決定すべきではなかったか。変更案の公聴会や縦覧で住民が賛成、反対どのような意見を述べるか分からない。
【回答】未利用になった県有資産は一般的に、まず県で利用がないか、次に地元の市町村で利用がないかを確認して、公共の利用がない場合は、民間での活用に向けて売却等を行うという手順で進めている。西奈良県民センター跡地も、公園としての利用も含め県での利用の予定はないと確認した上で、奈良市からも利用の意向がなかったため、売却の方針を決定した。
都計審に諮るタイミングがどこが適切かは、都計審を所管している部署にお聞きいただきたい。
質問(2)跡地の活用について、県は有識者意見聴取を行っている。外部の意見を聞くのであれば、同様に住民に対しても、意見聴取を行うべきだったのではないか。跡地には、多くの住民が利用する集会施設が立っていた。このほかの多くの県の低・未利用資産の整理資産とは性質が異なる。住民は要望書や署名の提出という形で、県に意見を伝えたが、県から求められたわけではなかった。
【回答】有識者への意見聴取は、跡地について民間での活用も含めてどのような利用が可能なのか検討するために行ったもの。センターの閉館に当たっては当時、利用団体や周辺自治会など関係団体に対し、個別訪問や文書の送付などで周知した。
質問(3)跡地について意見聴取した有識者は、清水建設、URリンケージ、監査法人トーマツ、大和リース、日本経済研究所の5者だったが、これらの企業はどのような基準、方法で選んでいるのか。また、意見聴取に応じたことに対する報酬はあるのか。5者に「○○審議会」のような名称はあるのか。
【回答】PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)という官民連携の考えに基づき、国土交通省が協定を結んでいるコンサルティング・パートナーというのがある。コンサルティング・パートナーは、PPPに関する地方自治体からの相談等に対応する民間事業者で、有識者はこの中からコンサルタントやシンクタンク、デベロッパーなど、土地等の利活用について幅広い意見がいただける方を選定した。各有識者に個別に意見聴取しており、審議会のような形は取っていない。報酬は県の規定によって支払っている。
PPPの概念 公共施設等の建設、維持管理、運営等を行政と民間が連携して行うことにより、民間の創意工夫等を活用し、財政資金の効率的使用や行政の効率化等を図るもの。(国土交通省のホームページから)
質問(4)跡地の用途地域は第1種低層住居専用地域。原則として住宅しか建てられない。跡地購入者の活用方法の幅を広げるための用途地域変更も視野に入れているのか。
【回答】用途地域の変更は県ではなく、奈良市が主体的に行うものになるので、県が売却に当たって用途地域の変更を市に働きかけるという予定はない。 関連記事へ