水道の広域化・民営化と水の自治を特集 「住民と自治」
水道の広域化・民営化と水の自治を特集した「住民と自治」4月号
地方自治の専門誌「住民と自治」2022年4月号(自治体研究社、東京都新宿区)が「水道の広域化・民営化と水の自治」を特集している。6人が執筆。水道民営化を志向する宮城県の事情、大阪市の水道コンセッションとPFI管路更新事業、急浮上した奈良県域水道一体化構想、小諸市水道事業の第三セクター化で見えてきたことなどを詳しく取り上げた。
高度成長期に敷設された多くの水道管が多くの自治体で耐用年数に達し、更新のコストをどう負担して安全を確保するか経営業態などの岐路に立ち、2018年改正の水道法は水道民営化と広域化に道を開き、その動きが広がりつつある。憲法が保障する生存権と公衆衛生についての国の責任規定を堅持させ、命の源の水道をどう守るか、特集は水の自治に光を当てた。
尾林芳匡弁護士は「あらためて水道の民営化を考える」と題し、地方公営企業法がうたう公共の福祉を増進させるための水道本来の役割について取り上げた。各地で進められている広域化計画が、地元の良好な水源を活用することより、遠方の水源や大型ダムの利用を優先しがちで不条理で実情に合わないと警鐘を鳴らす。
民間活力導入の先陣を自負するのが宮城県。工業用水を含む「上工下水一体の民営化」に向けた同県の事情を中嶋信・徳島大学名誉教授が執筆。宮城県が所有する水道資産の価値は3000億円と見込まれている。中嶋氏によると、この施設運営権を20年の間、10億円で運営会社にわたす計画で、会社側は92億円の利益を見込む。実際はフランスの国際的水企業の子会社の支配を受けるそうだ。欧州での水道再公営化の動きは話題になっている。
住民は水道の蛇口をひねるだけの受け身の存在でよいのか。中嶋氏は、今こそ2009年施行の公共サービス基本法の理念を読み直すべきと呼び掛けた。そこには「国民の意見が公共サービスの実施等に反映されること」という基本が盛り込まれている。
給水人口が270万人に上る大阪市は、管路更新事業のPFI方式での実施が注目される。大阪自治労連公営企業評議会の植本眞司さんが具体的な課題に迫って検証した。水道現場での人件費の削減という今日的な流れにより、技術の継承や災害時の対応において「現状の力を維持できるかどうか」と根本を問うている。水道の民営化問題は住民運動に発展しやすいというが、料金の値上げを抑制するための業務委託であれば「疑問を持つ人は少ないと思う」とも投げかける。
東京都武蔵野市は、市民が水循環や水源井戸、下水道の現場を学ぶ「水の学校」に取り組む。集中豪雨による浸水被害や水環境などの課題を市民と共有し、連携して解決したという。開校2年目の2015年度、国土交通大臣賞「循環のみち下水道賞」に輝いた。同市下水道課の大谷奨係長は、日ごろは市民の目につかない地下の下水道を通じた環境啓発の取り組みについて書いた。
長野県小諸市の直営水道は第三セクターを選択した。その経緯などについて市民団体「こもろの「水」を考える会」事務局長の高橋要三さんが執筆。同市の上水道は2019年から公民連携の株式会社「水みらい小諸」に業務委託している。新会社の出資割合は市が35%、法人2社の合計が65%という。水道事業は2年後の2024年に創設100年の節目を迎える。
同会は、市の新しい動きを否定するのではなく、協働の精神をもって市民のための水道を見守っていこうと発足。情報公開制度を学び、水源地や水道施設の見学会も行っている。
「今のところサービス低下や大きなトラブルについて耳にすることはありません」と高橋さん。しかし施設や管路の老朽化に伴う更新の行方、人口減少に伴う減収、それによる料金値上げ問題など、民営化で対応できるのか、「具体的論議が先送りされている」と苦言を呈した。
奈良県域水道一体化構想については浅野詠子が執筆。主水源の一つと目される大滝ダムのほか、奈良市水道100年の底力も語った。27市町村営水道と県営水道を一気にまとめようとする県主導の垂直統合計画は、デメリットの検証もされず性急すぎると訴えた。手にした県内の水道担当職員は「元禄期の吉野川分水構想にまでさかのぼって本県の水事情を書かれ、興味深く読んだ」と話している。 関連記事へ