県域水道一体化 国交付金の試算、下方修正避けられず 県費で補填、10年間で146億円
県域水道一体化構想の主水源の一つ、大滝ダム下流の吉野川。県営御所浄水場の取水口は左岸にある=2021年9月16日、奈良県吉野町
奈良県内27市町村それぞれの直営水道を廃止し、用水供給事業の県営水道とつなげる垂直型県域水道一体化構想を巡り、経営主体の企業団(一部事務組合)が事業を開始する予定の2025年度から10年間で得る国交付金の試算に関し、県は約1年前の時点の396億円から104億円減額し、292億円に下方修正した。県は10年間、県費から企業団に計146億円を繰り入れる提案を参加予定市町村に対し行っている。
記者が県に開示請求した文書などから分かった。
県水道局によると、一体化後の年間投資額は約160億円(30年平均)を見込む。1年前の試算約110億円(24年平均)と比べ、50億円を上乗せした。一方、国の交付金が得られる時期は事業開始後の10年間となり、各市町村の管路更新などの予定工事を勘案したところ、10年後以降にずれる工事も想定され、減額せざるを得なかったという。
事業開始と同時に水道料金が下がり、減収減益からスタートする県の試算に対し、奈良市企業局内部には異論があった。事業開始後の10年間、管路耐震化や直結配水施設建設工事などの投資額の原資になるのは、水道料金をはじめ、現在、市町村水道事業間で大きな開きがある内部留保資金、借金(企業債)、国交付金、県費の支出などが該当する。
国の交付金は、県が一体化の効果額を公表した際の主要な柱の1つだ。昨年1月、一体化の企業団設立に向けた県と関係市町村との覚書の時点では、国交付金対象の工事は約1200億円(10年分、補助率は対象事業の3分の1)と見積もった。
これに対し、奈良市企業局内部には「事業開始前に見込んだ額が果たして満額得られるものか、慎重に検討すべき。社会経済情勢などの変動も考慮し、せいぜい6割の受給で算定した方が良い」との指摘があった。
結局、県は昨年12月の試算で国交付金対象工事を876億円(10年分、補助率3分の1)に減額した。
その後、本年2月、奈良市内で開かれた第2回県広域水道企業団設立準備協議会において146億円を拠出することを提案。「県域ファシリティマネジメント推進の観点から、県から操出基準額を企業団へ繰り入れする(10年間)」と説明した。
県からの繰り入れは、国の交付金が減額となることへの穴埋めではないのか。
県水道局県域水道一体化準備室は「たまたま穴埋めのように見えるだけで、実際はそうではない。総務省が示す公営企業繰出基準に基づけば、水道の広域化推進の目的で県が繰り出せる制度がある。その満額が10年間で146億円に当たる」と話す。
県はこれまで、一体化の効果額として、奈良市営木津浄水場、生駒市営の地下水浄水場、葛城市営ため池利用浄水場など約10カ所を廃止し、更新しないことなどで生じる投資抑制効果額と国の交付金を合算し公表していた。しかし今後は、一体化の企業団に市町村が参加・不参加を計る尺度は料金メリットの試算が主であるという考えに基づき、一体化の全体像の一環として示した「効果額」という文言は使わないようにするという。 関連記事へ