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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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ジャーナリスト浅野詠子

記者余話)「重症警報」、水道会計には発令しないのか 奈良県の市町村財政健全化策

市町村に対する財政の「重症警報」を発令した奈良県庁=2022年6月30日、奈良市登大路町

市町村に対する財政の「重症警報」を発令した奈良県庁=2022年6月30日、奈良市登大路町

 「重症警報」という病状を表す言葉を用いる特異な手法により、奈良県は一般会計などの財政健全化指標の数値が悪化した市町村に対し警告を発したが、経営状況が悪い県内市町村の水道会計には発令しないのか。

 県市町村振興課は「水道事業会計について重症警報を発令することは検討していない」と話す。

 背景には、県が主導する県域水道一体化構想があるだろう。現在、県は多くの市町村長を味方につけ、水道広域化への橋頭堡(きょうとうほ)を固めようと躍起。いずれ消えてなくなる直営水道の財務に対し、いちいち警報を発するのは無駄であると踏んでいるのかもしれない。

 警報どころか、むしろ優遇の感もある。水道会計の世界では、製造コストより安い価格で供給する赤字体質の県内5市町村(宇陀市、御所市、五條市、下市町、吉野町)や水道料金が特に高い明日香村に対し県は、一体化の企業団に入る条件で、一般会計からの繰り入れを停止させ、累積欠損金を企業団で面倒をみる方向を打ち出している。統合した後も、これら市町村に対し、一般会計からの繰り入れは求めない方針で、水道経営が良好な市町村の議員から批判も出ている。

 県が昨年度、記者発表する形で発令した「重症警報」の指摘内容を見ると、県内12市の中では宇陀市の財政悪化が顕著で、経常収支比率、実質公債費率、将来負担比率の三つにわたる指標について県は「重症」と診断、支援策を示しながら改善を求めた。

宇陀市は2006年、4町村が合併して誕生した。広大になった市域において水道事業者は1つになったが、地理的な条件などもあって、合併するだけでは経営改善の特効薬にならなかった。

 まもなく、各市町村の2021年度・一般会計決算の数字が出そろう。県は再び「重症警報」の表現を使って警告を発するのだろうか。

 昨年度の発令の際、県が用いた経常収支比率という指標を巡っては、一般会計でその比率が100%を超えた団体が警報を受けたが、水道の会計においては、同じ名称の比率は、100%を超えると、経常利益が良好な目安になる。水道会計の取材中に気付いた。

 同じ自治体のそれぞれ重要な会計指標であるのに、正反対に使われ紛らわしい理由は、一般会計を統括する総務省と水道を司る厚生労働省がそれぞれ縦割りのまま、用語を温存しているからだろうか。

 県内27市町村の水道と県営水道を一気に事業統合しようとする一体化構想を巡っては、まず住んでいる市町村の水道会計から勉強しようという住民活動が始まった地域もある。「重症警報」という用語はやめた方が良いが、一般会計と公営企業会計は連結しているのだから、水道会計に対し県が何らかの警告を発することは意味がある。 関連記事

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