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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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ジャーナリスト浅野詠子

記者余話)東大阪の市民グループも奈良県域水道一体化の動向を注視

大阪府東大阪市上下水道局水道庁舎=2022年7月2日、同市内

大阪府東大阪市上下水道局水道庁舎=2022年7月2日、同市内

 大阪府東大阪市の市民グループ「みんなでつくる東大阪市民の会」(浜正幸代表委員)の要請を受け、記者が奈良県の県域水道一体化の動向について報告を求められたのは本年5月19日のことである。県の構想では、県内28市町村の直営水道を廃止し、用水供給事業の県営水道と一気に事業統合、企業団(一部事務組合)発足予定の2025年度から統一料金による広域の水道経営がスタートする。

 大阪広域水道企業団(一部事務組合)が発足したのは2010年度で、府営水道を引き継ぐ形で大阪市を除く府内42市町村が参加する用水供給事業が開始された。家庭に水道水を届ける注目の水道事業は、2017年度から3町村で始まり、その数は現在、藤井寺市など13市町村となり、それぞれ別料金で運営されている。

 こうした動きを見ると、奈良県の事例はいかにも性急である。県は構想を打ち上げた2017年当時、2026年に経営統合したいと述べ、それから10年以内に料金統一の事業統合を目指すとした。比較的緩やかな構想だった。ところが一昨年の2020年8月、県は現在の構想に急転換した。

 これを知り、大阪府内で給水人口最大の大阪市水道局の職員が奈良市企業局を訪れ、「奈良市が参加するメリットはどこにあるのか聞かせてほしい」と市の認識を尋ねたこともある。

 厚生労働省が公表している水道広域化の事例集においても、奈良県のように経営状態に非常に落差がある市町村水道と県営水道を短期間のうちに事業統合する構想は表に出てこない。

 東大阪市内の会場では20数人を前に、奈良県で進行していることを紹介したが、良い前例としては受け止められていないことが参加者の意見から伝わってきた。

 水道に詳しいある府議は「水道の広域化において料金統一は困難が伴う道筋だ。料金統一が実現された状態は、民営化への橋渡しを容易にするだろう」と話した。

 その日から1週間後の5月26日、「みんなでつくる東大阪市民の会」は「水道事業の広域化・一元化に対する市民の意見の反映等を求める要望書」を野田義和市長に提出した。

 同会によると、市は2030年を目標とした独自の「水道ビジョン」を策定したばかり。一方、府域一水道を目指す府は、市営の配水場や配水池などを廃止し、加圧ポンプ場設置などの経費削減プランや補助金交付案を提示。これで市は府水一水道への参加に前向きになったのだと、同会は見ている。

 奈良県郡部の町村浄水場で現在、進む「県水転換」(県営水道100%の受水)による県営浄水場との直結工事の光景と似ている。県内の知見だけで広域化のあり方を判断するのでなく、府県を越えて意見交換する機会は大事だと思った。水道の広域化について学識経験者や市議らの意見を聞くために奈良市企業局が開いている「県域水道一体化取組懇談会」において、研究材料にする「先行事例はまだ少ない」と市の担当者は、委員に説明している。

 広域化の推進を促す改正・水道法は、国庫補助金の財源的な裏付けを成すが、この改正は同時に、コンセッション方式という民営化に道を開いた。「東大阪市民の会」はこれを重く見て「大阪府が進める広域化・一元化が水道始業の民営化、営利化に道を開くものではない根拠を示してほしい」と要望書の中で市に求めている。同会は企業団との事業統合には反対で、自治体の主体性が担保される自治体間の連携、協力の道を探ることを要望している。

 大阪広域水道企業団によると、東大阪市をはじめ、岸和田、八尾など8市との水道事業の2024年4月統合に向けた協議を行っており、本年1月には統合への検討、協議に関する覚書も交わされた。

 かつて大阪市で水道民営化案(審議未了で2017年廃案)が浮上したが、かえって明治生まれの直営水道の価値が見直された。性急な事業統合だけが水道活性化の道ではないことが伝わる。経験と知識、そして勘をも生かしながら継承されたという浄水の長い歴史が市民運動の担い手により掘り起こされている。関連記事へ

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