記者余話)県域水道一体化効果額大きく上下 「理由」記録した公文書作成されず
県域水道一体化構想により廃止予定の9浄水場の一つ、生駒市営浄水場=2021年9月、同市山崎町
奈良県と県内27市町村の水道を一気に事業統合する県域水道一体化構想について、県が示す効果額は大きく上下してきた。2018年に公表された当初の効果額は800億円だったが、2020年6月、500億円に下方修正され、同年11月には再度の修正で686億円に増額された。記者は県情報公開条例に基づき、効果額が変動する理由を記録した公文書を開示請求したが、存在しなかった。
文書が存在しなければ、説明責任は伴わないことになる。県は、一体化の企業団(一部事務組合)の2025年度事業開始を目指す。こうした体質は受け継がれるのだろうか。
県民が得られる情報が乏しければ、住民参加も形式的なものになる。にもかかわらず、住民参加の考え方をさらに進めた「協働」という流行の概念を、一体化の公表文書の中で県は好んで用いている。
効果額は、送配水施設最適化に向けた算定などを委託したコンサルタント会社の知見を得て、県水道局が試算した。水需要の減少予測などを基に、市町村の直営浄水場9カ所を段階的に廃止し、更新しないで浮かせる投資抑制額と、10年間で得られる国庫補助金を合算するなどして算出している。
当初、効果額が800億円と大きかったのは、県の捉えた水道広域化の概念が現在より広範囲だったためだ。2018年の段階で自己水源の直営浄水場を廃止し、県営水道から受水100%に移行した橿原市、王寺町などの市町村営業務形態を「広域化」と位置づけ、2040年までに行う投資コスト削減額の一環として算入していた。この時点で県は、国から得る交付金は25億円程度しか見込んでいなかった。
県は、市町村に対し広域化の構想を示した翌年の2018年、一体化の事業統合は2036年度までに行いたいとする考えを公表した。ところが昨年1月、関係市町村と一体化の覚書を交わした時点で10年近く前倒しとなった。その理由についての説明も広報していない。
この間、国の水道広域化推進と民間の参入に新たな道を開いた改正水道法が2019年に施行された。県域水道一体化構想は2県営浄水場と奈良市営緑ケ丘浄水場を中核とした垂直統合のプランが具体化していく。2020年6月、国から得る交付金の想定額は10年間で360億円になると県ははじいた。
交付金の想定額はまた、前記した一昨年の360億円から増額され、昨年1月の覚書の時点で36億円プラスの396億円となった。
しかし、本年2月、奈良市内で開かれた第2回県広域水道企業団設立準備協議会に配布された資料では、国交付金の試算は104億円減額され、292億円に下方修正されていた。
この配布資料から「効果額」という表記が消えていた。県は今後の市町村との協議においては水道料金の試算を重視し、効果額を使う予定は当面ないという。
県水道局県域水道一体化準備室は「投資抑制額の変動は、効果額を精査していく中でそうなった。理由を記録した文書はない」と話している。 関連記事へ