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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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浅野善一

奈良県立大渕池公園 隣接の宅地所有者がため池の一部埋め立て、アシ対策理由に 土地改良区が県に相談

宅地に面した池の一部が埋め立てられた大渕池。手前の一段低い棚状の所が埋め立てられた部分=2022年9月12日、奈良市(写真の一部を加工しています)

宅地に面した池の一部が埋め立てられた大渕池。手前の一段低い棚状の所が埋め立てられた部分=2022年9月12日、奈良市(写真の一部を加工しています)

 奈良市の県立大渕池公園に隣接する宅地の所有者が池の一部を埋め立てたとして、池を所有する山陵中山土地改良区が公園を管理する県に相談していることが「奈良の声」の取材で分かった。アシが生えるのを防ぐのが理由とされるが、都市公園法や県立都市公園条例に違反する可能性がある。

 大渕池は広さ約7万平方メートルの農業用ため池。県は土地改良区との間で地上権を設定する契約を結び、公園の修景施設として管理している。ほとりには園路やあずまや、ベンチなどの施設もある。

 公園は学園前と呼ばれる市西部の新興住宅地にあり、広さは池を含め23万5000平方メートル。池に隣接する林地などに広場や運動場、体育館、テニスコートが整備され、住民らの憩いの場になっている。

大渕池の眺め=2023年4月21日、奈良市

大渕池の眺め=2023年4月21日、奈良市

 住民が2021年の夏ごろ、土地改良区に対し池が埋め立てられていると指摘したのが発端。土地改良区は県公園緑地課に相談した。

 池の周辺には敷地が数百平方メートルになる住宅が立ち並んでいる。問題を指摘した住民によると、池に面して並ぶ二つの宅地それぞれの所有者がアシ対策を理由に池の一部を埋め立てたという。宅地は一つが更地で、もう一つは住宅が立っている。いずれの宅地についても護岸に沿って池の一部が長さ約30メートル、幅最大5、6メートルの規模で棚状に整地されている。

 住民が撮影した写真では、更地の方の池の盛り土の厚さは数十センチあるとみられ、宅地と池の境界標も盛り土の先端に移されていた。

貯水量が減って埋め立てられた部分(左の一段低い棚状の所)の全体が現われた大渕池=2022年4月5日、奈良市(住民提供)

貯水量が減って埋め立てられた部分(左の一段低い棚状の所)の全体が現われた大渕池=2022年4月5日、奈良市(住民提供)

 県公園緑地課は、埋め立て場所が公園区域内であれば都市公園法、県立都市公園条例違反になるとする。

 都市公園法は、都市公園に公園施設以外の工作物などを設けて公園を占用するときは、公園管理者の許可を受けなければならないとしている。県立都市公園条例は都市公園の土地の形質を変更することを禁止している。また、ため池を埋め立てる場合、県の「大和川流域における総合治水の推進に関する条例」により、県への届け出が必要。

 「奈良の声」は県への開示請求で、2021年11月から2022年4月にかけて公園緑地課がこの問題に関して、土地改良区や宅地所有者と面談した際の記録を入手した。

 それによると、土地改良区は県に対し、池の他の隣接地地権者が同様の行為をする懸念があり、埋め立てを行った宅地所有者に都市公園区域を示し、区域内での禁止行為を説明してほしい、と求めた。

 一方、宅地所有者のうちの1者は県に対し、埋め立ての経緯について、2019年9月に土地を購入し、景観向上、維持管理のため、当時の土地改良区の理事長に口頭で了解を得て、同年の年末から翌年の年始にかけて盛り土をしたと説明した。これに対し、土地改良区は、盛り土を了解したとの引き継ぎはなかったと説明した。公園緑地課によると、面談した宅地所有者はこの1者だけという。

 開示された面談記録では宅地所有者を特定する情報は不開示だったため、「奈良の声」は地図上の位置を基に土地の登記簿を確認した。県が面談したのは、更地の方の宅地を所有する奈良市内の不動産会社と分かった。この会社に取材を申し入れているが、4月26日現在、連絡はない。

 もう一方の住宅が立っている宅地の所有者で、そこに住んでいる人は取材に対し「埋め立てはしていない。15年ほど前に防草シートを敷いた。シートが飛ばない程度に上から砂利を厚さにして3センチぐらい敷いた」と説明。

 理由について「アシが生えて動物がすみ着いたり、不審者が侵入する事件があったりした。刈るだけではすぐ生えてくるので防草シートを敷いた。公園の指定管理者にはシートを敷くことを伝えた」と話した。また、土地改良区に対しては2022年秋、シートをはがせばいつでも元に戻せると伝えたという。

 県が大渕池公園の管理を委託している指定管理者の青垣協同組合(奈良市)によると、この住宅の住民から当時、用心が悪いので防草シートを敷いてほしいと要望があったが、組合が県から委託を受けているのは年1回のアシ刈りだけでシートは敷けない、と返事したという。

 県公園緑地課は「地上権設定者として対応は必要だが県単独ではできない。埋め立てた場所が公園区域に含まれるかどうか、現地においてため池と隣接土地の境界が明確にならないといけない。まず土地改良区と隣接土地の所有者の間で境界を確定する必要がある」とする。

 県と対応を協議してきた土地改良区の関係者は取材に対し、埋め立ては違法との考えを示したが「県と話をしている。取材はお断りする」と話した。

 埋め立てを指摘した住民は「どこの歯止めもなく埋め立てが進められたら怖い」と懸念する。

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