奈良県営水道・広域化工事の開示文書 文字つぶれ、かすれ 元のデジタルデータは所在不明
開示された県の文書。表左端の列の文字がつぶれ、右端「内部留保金」の数字がかすれて判読できない
奈良県域水道一体化構想の重要拠点となる県営水道は2016年から起債を停止し、代わって内部留保金を主要な原資に今年3月までの間、県営浄水場と各市町村の水道施設を直結する関連工事に約43億5000万円を投じたが、うち2017年度の関連記録(保存年限5年)について、県が開示した文書の印刷が不明瞭で文字の一部を読み取ることができず、元のデジタルデータの所在も不明であることが分かった。
県の開示決定通知書と、文字がつぶれたり、かすれたりしている開示文書
県情報公開条例に基づき「奈良の声」は2017~2021年度水道広域化工事に充てた内部留保金約30億円(利益剰余金の積立金取り崩し額)の具体的な使途について開示請求し、県水道局はこのほど「(水道法)4条支出財源充てこみ」一覧などを開示した。
開示された記録は、水道広域化工事の財源内訳や市町村工区などを示した表で、項目が多く、特に2017年度は、A3判の用紙に1ミリかそれ以下の微細な文字や数値がびっしりと並び、印刷が不明瞭。項目名は二十数カ所にわたって文字がつぶれ判読できない。数字もかすれて読めない箇所がある。閉じ穴の位置と重なって文字が欠落している箇所もある。
水道局総務課は「開示に際し、元のデジタルデータを探したが見つからなかった」と説明した。同課によると、記録は職員が表計算ソフトのエクセルで作成したが、保存されているもので確認できたのは印刷出力した紙のデータだけだった。
一体化前夜物語る記録
同工事は「県水転換」と呼ばれ、ゆとりあるダムの水を背景に、県の県域水道一体化構想の基底を成す。開示された記録はこうした状況を知る上で欠かせない文書。
市町村の水道料金収入が減少傾向となる中、自前の浄水場を廃止し、県営水道100%に転換する団体が、県中部の小規模市町村を中心に15団体にまで拡大。これにより、県営水道の純利益は毎年、10億円を超えるようになり、内部留保金は昨年3月、過去最高の179億円に達した。
これを主要な財源として、県営浄水場と市町村施設を結ぶ送水管や配水管、受水池などを建設する工事が進んでいる。水道一体化前夜の状況を物語る。県は2021年度、宇陀市など6市町村の送水施設整備を実施。2022年度は、県営桜井浄水場からの送水管と田原本町の配水管を直結する工事の実施設計に入り、2023年度、着工する。県はこれら工事を「県域水道ファシリティマネジメント事業」と呼んで、「県営水道と市町村水道を一体と捉え、県域全体で水道資産の最適化を図る取り組み」と位置づける。
現在、広域化の受け皿工事の原資となる県営水道の内部留保金は、裏返せば、一体化構想への参加をまだ決めていない奈良市、大和郡山市を含む24市町村水道が水を仕入れることから生じ、背後には、水道料金を負担する住民、事業者らがいる。県民への情報提供はまだ足りない。
県水道局総務課は「開示文書の不鮮明な箇所は口頭で説明する。起債(企業債)の停止は、経営上の判断から決定したもので、県域水道一体化構想を踏まえた措置ではない」と話す。 関連記事へ