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浅野善一

控訴審判決、今週にも確定 奈良県香芝市議会の出席停止巡る訴訟 処分内容踏み込み問題点指摘も

奈良県香芝市役所=2024年6月26日、同市本町

奈良県香芝市役所=2024年6月、同市本町

 奈良県香芝市議会の青木恒子議員(共産)に対する出席停止処分を違法とした控訴審判決は、三橋和史市長が「上告しない」との方針を示したことで今週にも確定する見通し。奈良地裁の一審判決を不服として市側が控訴したものだったが、8月28日の大阪高裁の判決は一審判決を維持した上で、処分の内容についてさらに踏み込み問題点を指摘するものだった。(判決は9月18日に確定した)

 同訴訟は、2022年12月に出席停止処分を受けた青木議員が議会の議事に出席できなくなったことで精神的苦痛を受けたなどとして、市を相手取り、国家賠償法に基づく損害賠償を求めたもので、一審の奈良地裁は今年1月、「処分は裁量権の範囲を逸脱し違法」として、市に対し慰謝料など33万円の支払いを命じた。控訴は前市長のときで議会の意向を受けて行われた。

 出席停止処分に対しては、司法審査の対象とするとした令和2(2020)年最高裁判決があり、裁判では陳謝拒否を理由とする出席停止処分が違法かどうかを判断するのに、陳謝拒否にも審査が及ぶのかどうかが主な焦点となった。

 出席停止処分の発端は、2021年12月の市議会福祉教育委員会で青木議員が国民健康保険料の窓口に同行したことに言及した後に、川田裕議長が同保険料や生活保護の窓口への市議会議員の同行は「禁止された」と発言。これに青木議員が「議員に対する圧力と感じた。パワハラのように聞こえた」などと反発したこと。

 議会はこれを懲罰理由として青木議員を陳謝処分としたが、同議員は議会が決定した陳謝文は内心の自由に反する内容だとして朗読を拒否。議会はこの陳謝拒否を理由に再び陳謝処分を行ったが、青木議員はこれも拒否した。こうしたことが計5回繰り返された末、議会は5回目の陳謝拒否を理由に2022年12月、同議員を4日間の出席停止処分とした。

 奈良地裁は、出席停止処分が陳謝拒否を理由に行われた場合は「陳謝の懲罰の適法性、相当性も審査の対象としなければ…(最高裁判決が)出席停止の懲罰を審査の対象とした趣旨が損なわれ」ると判断。その上で、議会が決定した陳謝文に懲罰理由以外の内容が含まれていたことなどを挙げ、1~4回の陳謝処分を違法とした。その違法な陳謝処分を拒否したことを理由に行われた5回目の陳謝処分を拒否したことを理由に、より重い出席停止処分を行ったことは裁量権を逸脱、またはこれを乱用するもので違法とした。

 大阪高裁の判決は陳謝の対象や陳謝文の内容についてさらに踏み込んだ。一審と同様、「陳謝は議員の思想、良心の自由との緊張関係をはらむものである」とした上で、「地方自治法が議会に自由裁量を与えているわけではない」と加えた。

 さらに、青木議員の川田議長に対する発言が実際は「パワハラのように聞こえた」だったのに、この発言を引用した陳謝文では「『パワハラだ』と断言をした」とされていたことについて「問題性を誇張する不正確な内容が含まれ、朗読を命じることは相当性を欠く」と指摘した。

 そして、内容が不正確な陳謝文の朗読を拒否したことについて、5回目の陳謝文で「私自身の身勝手な判断により陳謝文を朗読しませんでした」と「反省を述べさせることは、さらに不相当」と指摘、「『身勝手な判断』であるとはいえない」とした。

 三橋市長は控訴審の判決があったその日に上告しないとする方針を発表した。市総務課長によると、市長は事前に今年1月の議会の採決で控訴に賛成した議員8人に直接、連絡を取り、方針を伝えたという。同課長は議員の反応について「異論はなかったと聞いている」とした。

 「奈良の声」の取材に対し、川田議長は「被告は市長。市長が判断した以上、言える立場にない。市長の考えを尊重する」とする一方、「裁判所の司法審査が陳謝処分に及んでいる。どちらが勝訴するにしろ最高裁の判断を聞きたかった」と述べた。

懲罰の審議12時間に及ぶ

 青木議員が朗読を求められた議会決定の陳謝文には、審議に「多大な時間」が割かれたことへの謝罪も含まれていた。今、その指摘は懲罰を議決した議会に向けられる。

 青木議員側が裁判所に証拠として提出した1、2回目の陳謝文(朗読を拒否したため回収されており、青木議員の記憶などに基づく再現)に「この度は私ごとにおいて、議員皆様に多大な時間を割いていただくに至ったことは、心からお詫(わ)び申し上げるものであります」との謝罪文が含まれていた。3、4回目の陳謝文もほぼ同一の内容とみられている。

 懲罰の審議ではまず、議会の付託を受けた市議会懲罰特別委員会で懲罰を科すか否か、科す場合の懲罰の種類を決定。それを受けて本会議でその可否について採決を行う。

 審議は2022年1月から12月まで1年間にわたり、懲罰特別委と本会議を合わせた審議時間は約12時間に及んだ。このうち懲罰特別委が審議にかけた時間は、市議会がホームページで公開している「市議会懲罰特別委員会概要」から各回の会議の開会、閉会時間を「奈良の声」が確認したところ、開催8回で計約10時間。これを受けた本会議での採決は7回あり、同様にホームページで公開されている録画を確認したところ、審議に要した時間は合わせて約2時間だった。

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